『はあ？調査隊だって？何考えてんだ、アルファは？お前みてぇな強い継承者をうまく活用せずに調査隊に配置するなんてよ！こりゃ大きな損失だぞ！』

司令部の決定を聞いたジェレミーは怒りをあらわにした。キーランはそんなジェレミーを見て何も言わずにため息をついた。キーラン・アヨデレ。数々の迎撃戦に投入された継承者でありながら、迎撃戦への志願回数が多い継承者の一人で、さらに高い成功率を誇る継承者だ。風と気圧を操るアルケー能力で巨神の動きを止めたり、気流を操って加えられた攻撃の方向を変えたりして戦闘を有利に進めることで、迎撃戦に必ず投入するべき継承者かつ重要な戦略資産として活躍した。

迎撃戦への投入を決めたのは司令部であったが、キーラン自身の強い希望でもあった。彼はヴォイドという予測不可能な空間で謎の存在である巨神と戦闘することで得られるアドレナリンと高揚感を戦いの原動力、生きる理由にしていた。ヴォイドエネルギーに長い間さらされることを懸念した司令部が彼の迎撃戦参加を引き止めたが、キーランは気にも留めなかった。どうしてもやめられない習慣のように迎撃戦に参加した彼は高揚感に酔い、自身の体の変化に気づけなかった。やがて彼の体内には大量のヴォイドエネルギーがたまり、異常を起こして副作用としてアルケーの形質が変化した。「アルケーはDNAに刻まれた遺伝物質なので形質は変化しない」という根本的な基準を崩したこの事件に、アルビオン司令部とマジスターたちは困惑した。

ヴォイドエネルギーに変化したアルケー能力がどんな問題をもたらすか分からないのだ。結局、司令部はヴォイド迎撃戦を含むすべての任務からキーランを外し、その案件に関する議論が終わるまで彼を調査隊に編成することにした。調査隊の仕事は決して軽いものではなかったが、綱渡りのような迎撃戦で自分が生きていることを感じていたキーランにとって、その環境はあまりにも退屈で死にそうだった。そんな退屈な日々を送っていたある日、キーランは司令部に呼び出された。彼を呼び出したアルファはこう言った。

『我々は、君がヴォイドベッセル特殊捜索隊の増員メンバーに適していると判断し、君の所属をヴォイドベッセル特殊捜索隊、ハウンドに変更した。君は優秀な成績を持つ継承者であり、迎撃戦の経験が多くヴォイドという環境の特殊性を熟知しているうえ…ヴォイドエネルギーに免疫がある。つまり、すべての条件を満たしているということだ。これからハウンドの一員として活躍してもらいたい』

真剣なアルファの話を聞いていたキーランは、呆れたかのように笑うとあざけるようにつぶやいた。

『ヴォイド用の猟犬か』

生意気な態度をとる彼に、アルファは何か答えようとしたがキーランのほうが早かった。

『言われた通りにしますよ』

キーランは気分が良かった。また戦える。しかもヴォイド深層部という未知のエリアで。初めて遭遇する敵と戦い、その激しい戦いで生きているという高揚感を得るだろう。気分が良くなるのは当たり前だ。久しぶりに心臓が高鳴るのを感じた。初めてHOUNDに配置された日、訓練同期の継承者イネス・ラヤにこう声をかけられた。『こんにちは！あなた、気分良さそうね』イネスの言葉に、彼はかすかに笑いながら答えた。

『予測できなかったことが起こるのが面白くてな』

アルビオン史上初めてアルケー形質が変化した事件を研究するために、アルビオン工学研究所の首席研究員たちが動員され、アナイスを含むマジスターも人類のアルケーに関わる者は全員投入された。キーランの新たなアルケー能力はアルケーにヴォイドエネルギーが融和したもの。風と気圧を操る能力は維持され、生成された気流にヴォイド酸化物が一緒に放出される形に変化した。そして研究陣はキーランの新たなアルケー能力が巨神オブストラクターと類似していることを明らかにし、彼のアルケーを「ヴォイド酸化物の放出」と規定した。幸いにもアルケー因子を持つ他の継承者にはヴォイド酸化物が反応しないことが判明し、司令部はキーランをハウンドに編成することにした。キーランはハウンドユニット訓練を受けながら、自身に与えられた新たな力の使い方を身につけた。

『新しいものはいつも楽しませてくれる。力も、戦闘もな』
- キーラン